愉快な物語、面白い歴史、推理小説などのblog

どうせ見るなら・読むなら心から楽しくなる、未来が明るい物話がいい。そして時々コアな話も。そんな話を子どもたちや友人に紹介したい。司馬遼太郎と宮崎駿のファンが、そんなことを思いつつ好きな作品の感想などを述べてます。

幕末を生きた新しい女(司馬遼太郎が考えたこと3 より)

坂本竜馬は維新史の奇蹟的存在である、といったのは平尾道雄氏だが、このことばには限りない魅力がある』という書き出しから始まるエッセイだが、この言葉に魅き入れられたお蔭で司馬さんが竜馬がゆくを描き、そしてそれを私たち後輩が楽しめるということになったので、平尾道雄氏には頭が上がらない。

 

 『幕末を生きた新しい女』は、その竜馬の青春を彩った女性たちについてそれなりの分量を持って語っておられる。私にとっては作品を通してこちらの女性たちに出会ったのが10代終わりで、私の青春にもその姿はあったように思う。従ってこのエッセイを楽しみながら読んだ。

坂本乙女 竜馬のすぐ上の姉。「坂本のお仁王様」の異名を持ち、寺子屋の先生にも愛想を尽かされた竜馬を、亡き母の代わりに育て上げた快活な女性。この姉と剣術に出会ったことにより、竜馬は変貌を遂げ、一角の人物となった。

千葉さな子 竜馬が江戸で通った剣術の桶町千葉道場の娘。免許皆伝の腕前。剣を通じて竜馬を好きになり、最後に想いを竜馬に伝え、竜馬は国事に奔走していた頃なので、その気持ちに応える形で自分の紋服の片袖を渡す。竜馬はさな子を恋人というより親友と思っていたようにも思う。ただ、司馬さんは竜馬は「さほどではなかったのであろう」とやや冷たい。その分、私はさな子に肩入れするのだ。

お登勢 伏見寺田屋の女主人。初めて竜馬が上京してきた時から、姉のように可愛がり、竜馬も懐く。今思えば寺田屋は伏見から天満橋の30石船も運営していたから、小さいながらターミナルホテルのような存在だったかも知れず、するとそれを切り盛りしていたお登勢さんはやはり大した女性だったのだろう。そんなお登勢さんに可愛がられて、竜馬は良かったと思う。

平井加尾 お田鶴さまのモデルで、竜馬の七つ違いの幼なじみ。後に土佐藩主の姻戚である京の三条夫人の侍女になった才女で、美人。現実に恋文のような手紙を出してそれが残っている。史実的にはそれを加尾が兄に相談したようだが、その他のことは残っていない。しかし、その分、想像が進んでしまうし、お田鶴さまも生き生きと描かれたのであろう。私も、十分に魅力的な方だと思う。

おりょう 竜馬の妻。彼女の家族の窮地を竜馬が救ったことから縁ができた。この主題に最も相応しい女性であろう。お侠で才女で美人。そして寺田屋で幕吏に襲われた竜馬の命を助ける役目を果たし、怪我をした竜馬の看病もする。竜馬はそこから惹かれ妻とした。私は竜馬が命を狙われる京都市中でおりょうと手をつないで河原町を歩いたという話や、新婚旅行で薩摩に行き、霧島で温泉巡りや天の逆鉾を抜いたりして楽しんだという風景が好きだ。

 

以上、エッセイなどを読んだ記憶と感想を元に、並べる形で紹介してみた。

司馬さんは、熱いものを秘めながらも淡々と小説を書いておられたように思う。

しかし、10代の私は竜馬の志や活躍とともに、同じくらいその青春の描写が好きだった。

特に、お田鶴さまとさな子は甲乙付けがたく、どちらも好きだなぁと思った。

そしてこの稿を書きつつ今も気持ちは変わっていないことを再認識し、一人可笑しく思った。