『果心居士の幻術』
戦国期に活躍した忍者などを題材にとった小編が6点入った小説。解説も秀逸。
『果心居士の幻術』
戦国期の小説は往々にして血湧き肉躍る大活躍をする大名やその重臣を主人公にとったものが多い。
その中で、司馬さんは忍者と言う、子どもたちに大人気の、しかし実態がよくわからない題材をよく描く。そして、司馬さんの観点では「職業的」な特徴に注目しつつ、能力は高くとも、世に言う何かが欠落している部分を中心に描きつつ、彼らにはなんらかの突出した美意識をも描いていることが多い。
果心居士は、大和興福寺の元僧侶で、大和の2大大名の松永弾正久秀と筒井順慶の間を跳梁する。この有名な二人の心に潜み、彼らを手玉に取りながら、最後は呆気ないように思われ、そこが不思議な読後感のある小説である。
『朱盗』
奈良時代を背景に、藤原広嗣を主人公にしているのが珍しく、面白かった。
話は広嗣の乱を描いてはいるが、それがメインではない。
百済から来た人物の子孫である穴蛙と言う不思議な人物との出逢いにより、歴史の中心人物であるはずの広嗣が、代々悠久の時間の中での仕事を営む穴蛙と相対化されると、一瞬の存在となる。かといって穴蛙自身も、歴史上に何の影響も与えない、またその人生や代々の仕事も空漠とした存在であり、人間という存在のおかしさを司馬さんは描いてみたかったのかなと思った。
正直『壬生狂言の夜』などを読むと、新撰組のどこがいいんだろう?と思われる。