『燃えよ剣』
幕末を鮮烈に駆け抜けた新撰組副長土方歳三の生涯。原作司馬遼太郎。
幕末維新の頃は、ほんのわずかな期間活躍したことでも、その後100年経っても人々の記憶に残る。
新撰組はそのうちの一つの組織であり、数年間しか存在していなかった。
司馬さんの『燃えよ剣』では、その近代組織として新撰組を作り上げた土方を主人公に物語を展開しており、それが発表当時の高度成長期の日本企業の管理化が進む時代にマッチして、土方の生き方と共に多くの人を魅了したのではないかと思われる。
その映像化は度々なされていたのだろうが、本作においての感想は次のようのだった。
・主役の土方は、岡田准一が好演していた。多摩時代の天然理心流試衛館の若い頃から、京都に上京して新撰組を結成、近藤を支えて副長として活躍した時代、そして鳥羽伏見の戦いから沖田ら仲間とも別れて函館戦争に至るまでの最晩年まで。それぞれに原作で読んだ土方のイメージに近いと思った。
・剣戟(チャンバラ)のシーンが多くて、チャンバラ好きとしては楽しかった。ただ惜しむらくは、岡田の剣戟は上手かったが、他はもう少し上手ければ、もっと良かったと思う。
・芹沢鴨の伊藤英明の演技が良かった。酒乱でありながら剣豪、女好きという役になり切っていた。
・近藤勇の鈴木亮平も、人柄がそうであったのではないかと思われるほど、らしくて良かった。
・少し驚いたのは、沖田総司役の山田涼介で、司馬さんの描く沖田もいろんな役者さんが演じてきたと思うが、素朴な感じが持てて良かったと思う。
・山南敬介の安井氏は、少し過剰であったように思う。ただ、そうでなくては土方系に対抗できる力になり得なかったのかと考えると、実像も肩肘張っていたのであろうか。
・箱館戦争での有終の美を飾る最後も、土方が馬で駆けて撃たれるシーンが颯爽としてカッコよかった。
・映画全体として、この時間内に満遍なく主要なエピソードがまとめつつ、原作のイメージに結構忠実に作られていたと思う。
観終わって感じたことは、あの時代は急な環境の変化の中、生身の人間と人間がぶつかり合い、討幕佐幕含めて誰しもが必死に生きていたことで、改めて感慨深かった。
それも、剣同士の戦いや銃弾の飛び交うシーンが多く描かれていたことと、池田屋事件で店員のふりをした山崎が志士たちの刀を隠したり、池田屋の人たちが志士の人たちを逃がそうと懸命になっている姿などのディテールを描いたシーンにより、一層感じられたと思う。