愉快な物語、面白い歴史、推理小説などのblog

どうせ見るなら・読むなら心から楽しくなる、未来が明るい物話がいい。そして時々コアな話も。そんな話を子どもたちや友人に紹介したい。司馬遼太郎と宮崎駿のファンが、そんなことを思いつつ好きな作品の感想などを述べてます。

『風の武士』(司馬遼太郎)

bookclub.kodansha.co.jp

 

 

『風の武士』 

司馬さんが初期の頃に書いた長編小説で、幕末を舞台に、忍者や幻術を扱った、物語である。

司馬さんの物語には、実在した人物を主人公にした話と、創作の人物を主人公にした話と、大きく2つあると思っている。これは後者で、司馬さんの初期には多い。(その完成系は最後の長編小説は韃靼疾風録だと思う)

 

主人公は、柘植信吾。忍者の末裔で、剣術が得意だが、伊賀同心の次男坊で人生の目標が見ない。そんなとき、代稽古として通っていた町道場練心館で突然事件が起こり、巻き込まれていく、と言うよくあるが、ワクワクする筋である。

ヒロインは2人いて(いいなぁ)、一人は道場主の娘のちの。もう一人は、幼馴染のお勢以

ちのは、実は丹生津姫を祖にもつ安羅井国と言う熊野か吉野のあたりにあると言われている隠し国の姫。お勢以は近くの飲み屋をその父から継いだ女将で、幼馴染の信吾を長年想っている。

信吾は、事件を起こしたもう一人の代稽古のライバル、高力伝次郎にその姫を攫われ、また同時に安羅井国にあると言われる財宝を狙う幕府からの密命を得て、そして安羅井国からちのを迎えにきたと言う男と姫を追うことになった。

江戸から京都へ、大阪から熊野、吉野へ。幕府の隠密や同国を狙う紀伊藩などいろんな者たちが絡んで命懸けの冒険を続ける。終盤ではちのと想いを交わし、目的地へ辿り着く。

 

そんな中、紀伊藩隠密の首領で、元藩の大坂留守居役の早川夷軒と言う人物は魅力的だった。紀伊藩の大物で、武力もあり、心根は爽やか。何より緒方洪庵の弟子で医学にも明るく、この安羅井国のことを藩の方針を超えて、個人として考古学のような学問的な興味で捉え、信吾と立場を超えて仲良くなっていく。

最後は隠し国の安羅井国の正体が、古代ヘブライ人が日本に辿り着き、作った国というか集落だったと言うことがわかる。そこで信吾は意識を失い、気がついたときには国から出ており、時代は維新に向かうところで、ちのや安羅井国は幻だったのかと思うほどであった。

 

その終わり方、現実への戻り方が、いきなりだったけど、良かったと思う。

おそらくその後信吾はお勢以と一緒になって明治を生きたんだろうなぁと思った途端、自分も安羅井国までのこれまでの冒険が全て物語で、本から現実に戻った気がした。

 

そういえば、この本をふと手に取ったとき、ちょうどガザで紛争が起こった頃だった。

なので、その辺りも少し心に残った。穏やかで平和に暮らすのがいいなと思った。