愉快な物語、面白い歴史、推理小説などのblog

どうせ見るなら・読むなら心から楽しくなる、未来が明るい物話がいい。そして時々コアな話も。そんな話を子どもたちや友人に紹介したい。司馬遼太郎と宮崎駿のファンが、そんなことを思いつつ好きな作品の感想などを述べてます。

戦中と戦後について(司馬遼太郎が考えたこと 1より)

司馬さんのファンを自称する私は、作家としての成り立ちを知りたくて、若かりし頃の想いも綴られたであろう、この書を手に取った。

 

期待通り、”司馬節”はすでに随所に垣間見え、お題へのアプローチがうまく、読者をグイグイ引き込むその筆力は相当なものであったが、若かりし頃の熱量というものも同時に感じさせる、瑞々しい文章が多い本であった。

 

ただ、その中でも強烈な印象を感じたのが、それでも、死はやってくる』である。

私の世代は、戦争というものを直接には知らない。

しかし、司馬さんの文章を通して、戦争が始まり、卒業と同時に軍隊に入らざるをえない学生の絶望感と救いへの渇望が理解できた。

司馬さんは、結局歎異抄など知識ではどうにもならず、最後は中学時代の先生に小突かれつつ聞いた「念仏」の体感により戦場でも逆に安堵を感じるようになり、ある日大地に寝転がった時に眼前に咲く花を見て、世界と一体になったように感じたということである。

 

私は、宗教はどうも受け付けない体質でありながら、この感覚はふわっと理解できたように思う。

 

他方、戦後のバイタリティを描いた作品に、『あるサラリーマン記者』がある。

戦後復員した大阪は、コテンパンにやられた後で何もないようだが、絶望から蘇って、とてつもなく明るい感じがする。そこで、同じ復員者のOと共に新聞社に出任せで就職し、そこから複数の新聞社で若い生活を同僚たちと謳歌する様子の描写は、とても生き生きしていて、読んでいるこちらまで楽しくなってくるのである。

 

そしてこの短編2本だけで、私は「死はやってくること」を改めて認識しつつも、「生きて未来が明るいと思えれば楽しい」ということが人にとっては大切なことだ、と感じることができたのであり、それはありがたいことだと考えているのである。