同書の中の『男の魅力』は、面白い短編だ。
別段、彼の代表作である『竜馬がゆく』や『燃えよ剣』、『国盗り物語』などに描かれた、坂本竜馬や土方歳三、織田信長などに直接触れているわけではない。
司馬さんや海音寺さんという偉大な歴史小説家が「本を書くより、本を読んでいたい」という、自分と同じような「一読者でいる方が楽しい」思いを率直に述べられている。
(あんな大作家でも、同じように思うんだなぁ)と何故か少し嬉しく思う。もちろん私は作家のように何かを世の中に提供している存在ではないので、密かに同じだと思っているだけだ。
さて、その短編では、司馬さんが「なぜ本や資料を読むのが好きなのか」を自身で分析されている。
それは「本を読みながら、そこに書かれている人の魅力について想像するのが楽しい」ということで、だからこそ、ご自身でも「男の魅力について」書いてみたいと思われたのだろう。
ただ昭和30年台あたりでもすでに男の魅力は書きづらかったようで、歴史を舞台にすると活躍させやすい、ということで、よく幕末や戦国の動乱時代が舞台になっているとのことだった。
それにしても、司馬さんはいろんな型の男の魅力を書いておられる。
坂本竜馬、土方歳三、吉田松陰、高杉晋作、織田信長、斎藤道三、豊臣秀吉、秋山好古・真之、河井継之助などなど。
私個人は坂本竜馬や高杉晋作が好きだが、本当に幅広いタイプの魅力的な人物を描いておられる。司馬さんの作品をいろいろ読むことで、知らなかった人物の魅力に出会えることも、とても楽しい。
それらの人物は、己の志を見つけ、それに向かって前に進んでいく。そこが男の魅力であり、司馬さんの小説の魅力なのだ。
そして時には憧れた人物像に近づけているかと自分を振り返る。ほとんどの場合二度見したくない結果なのだが、たまに、僅かでも前進したと感じられる時、とてもうれしいのである。